取材・文:馬場 美穂子
ダンサー・LGBTQ
別世界へいざなうショークラブママ
銀座から八戸へ。別れと再出発を
経て、舞台から元気を届け続ける
ダンサー・LGBTQ
別世界へいざなうショークラブママ
銀座から八戸へ。別れと再出発を
経て、舞台から元気を届け続ける
1章
鷹匠小路にある「showclub-KA-RU-LA-(ショークラブ カルラ)」の店名の由来は「迦楼羅」。
インド神話の聖なる巨鳥「ガルダ」が仏教に取り入れられた仏法の守護神で、金色の翼を持ち、鳥の頭と人間の体を持つ。
龍や毒蛇を食べて口から火を吐き、病気や厄災を退治する力を持つとされて、不動明王が背中に背負った炎(迦楼羅炎)のモデルにもなっているのだとか。
結友さんの干支である酉年の守り神は不動明王だから、その背に控える迦楼羅神を店名にいただいたらしい。
蛭子結友(ひるこ・ゆう)さんは、このカルラのママであり、メインダンサーでもある。
2023年9月に同店をオープン。
ステージで行う25分間のショータイムは、構成・演出・振付・衣装デザインのすべてに結友さんのこだわりが詰まっている。
ストーリー性のあるダンス、早着替えの演出が観客を引き込む。
女性が見ても楽しめるよう工夫を凝らした内容で、ショー中に投影される動画に観光名所を織り込むなど、八戸の観光PRも意識している。
4か月ごとに更新するショーの演出を考える時期は、毎晩夢でうなされるほど追い詰められるという。
しかし「そのくらいになって初めて、ちゃんと自分を追い込めているってこと。お客様にお見せできるものを作るにはそれくらいがいいの」と笑う。
若いスタッフも育成中だ。生まれも育ちも東京の結友さんは、八戸はダンス文化が盛んな土地だと、住み始めて知った。
そして、若い世代がダンスを仕事にできる道を開きたいと考えるようになった。
自身もトランスジェンダー。「LGBTとしての自分に悩んでいる人が、地元でもっと生きやすくなるきっかけをつくれたら」とも思う。
「八戸の夜の街をエンターテイメントという新たな切り口で盛り上げたい」という気持ちが、オープン当初からの活動の道しるべだ。
2章
結友さんの半生は、まさに山あり谷ありだ。
6歳で母と別れ、祖母と年の離れた姉のもとで育った。
高校卒業後、プロダンサーの夢を追うも生活は苦しく、20代の初めに借金を抱えて転居。
誰一人知る人のいない土地で、社員寮に住みながら工場勤務を始めると、最愛の恋人と出会うことができた。
彼と一生を歩もうとしたけれど、同時期にショークラブの世界と出会い、強く惹かれていた。
悩んだ末にトランスジェンダー女性として生きることを決断。仕事も恋人も全てを捨てて、東京行きの夜行バスに乗った晩のことは、今も鮮明に覚えているという。
銀座で1、2を争う有名ショークラブのオーディションに合格したのは32歳のとき。
一回り年下の先輩ダンサーにしごかれながら努力を重ね、数年後には座長に抜擢された。
しかしここでも試練が襲う。
新型コロナウイルスの世界的な流行、パンデミックだ。
通りから人影が消え、時短要請を受け1日3時間の営業でも、経営側が売り上げ目標を下げることはない。
座長である結友さんに、プレッシャーが重くのしかかる。
もがき続ける中で支配人に浴びせられた冷たい言葉に、心の中で何かが切れた。
気づけば店を飛び出していた。
銀座の裏通り、人気のない路地に横たわって煙草を吸った。
結友さんは後日、謝罪と話し合いの機会を求めたが、聞き入れられることはなかった。
同居していた姉に引退を告げると、
「いいんじゃない。辞めても結友ちゃんは結友ちゃんだし」と、さらりと言った。
「それよりお母さんも年で、心配だからさ。私たちも八戸に行こうか」
この一言で、母が独り住む八戸行きが決まった。
越してしばらくは動画配信で稼ぎながら、頭の片隅では「出家したい」と考えていた。
しかし、たまたまダンサーとして出演したステージが、地元の飲食店グループ社長の目に留まり、開店への誘いを受けた。
初めは断った。が、まちの将来を真剣に語る経営者の熱意に心が動いた。
今までの自分は自分のために踊り、そして行き詰まった。
だけど、自分以外の誰かのためなら、踊れるかもしれない。
悩みに悩んで、相談したのは母だった。
「あなたは修行の道に入りたいと言うけど、店をやって色々な人に寄り添うことこそが一番の修行じゃない?」
「現場を投げ出した自分に、ステージ立つ資格はない」
心の時計は、あの晩の銀座の路地裏で止まったままだった。
だから開店準備は、弱い自分と向き合い、許し、認めることから始まった。
3章
「終わった」と思った場所から、人生は思いがけないかたちで続いていく。
結友さんの歩みは、そんなふうに何度も姿を変えながら、今につながっている。
店を始めて2年余り。
「私は八戸のこと“田舎”だなんて全く思わない。最先端の場所に引っ越して、好きなことやれて幸せ」と、結友さんはハスキーな声で話しながら、穏やかにほほ笑む。
「満席のお店でショータイム。25分終えて戻ったらチップが出て、むしろ銀座の時よりも頂いてるかも(笑)。そういう現場で今、毎日働いていることがうれしいし、この八戸で、ダンスを仕事として成り立たせられる現場が整えられてるってことが、うれしいの」
八戸の未来図が、最近浮かぶ。
「AIの普及で、都市部が絶対的に優位な時代は終わりつつあると思う。海があって山があって、農産物も海産物も豊かで、そういう場所で、最先端のことができる時代が来ている。豊かで幸せな時代よね」
2026年は、小中学校での講話やダンスレクチャー、店に親子を招待してのステージ鑑賞も計画している。
「ショーは別世界にお客様をお連れするもの。照明も演出も、すべてを緻密に計算して整えた中で、汗をかきながら全力で踊る姿を見たら、何か感じてくれるんじゃないかって思っている。
それが私から、八戸で育っていく子どもたちに対してできることだから」
取材・文:馬場 美穂子