整体師

歌うセラピスト

倉舘 麻美さん

声と手で寄り添う癒しのひと

やってみれば分かる。肯定から始まる癒し
歌と施術、そのどちらもエネルギーを循環させる時間

1章

たった一人のあなたへ

「これから一歩踏み出したいと願う人に、言葉をかけるとしたら?」

問いかけると、倉舘麻美さんは少し考えてから、こう答えた。
「やってみれば分かる」

「やってみなくちゃ分からない」と挑戦をあおるのではない。
「やってみたら、きっと何かが分かる」。
その言葉には、相手を追い立てない、やわらかな肯定がある。

「踏み出せば、必ず見ていてくれる人がいる。
引っ張ってくれるキーパーソンが必ずいるから。
その一人に見つけてもらうために、
まず自分が一歩、動いてみるってことかな」

倉舘さんは“歌うセラピスト”だ。
八戸市下長でドライヘッドスパ・マッサージサロン「ふわ月」を経営するかたわら、ライブや動画配信を中心にシンガーとしても活動している。


歌と、セラピストという仕事。
別々の営みのようにも見えるが、倉舘さんの中では、どちらも“同じ場所”から生まれているという。

「結局いつも思っているのは
“あなたに届いてほしい”ってことかもしれません」

ハッピーな歌で、誰かが少し明るくなれたらいい。
悲しい歌で、胸の奥に溜め込んでいた感情を、思い切り外に出せたらいい。
ステージに立ち、多くの観客を前にしていても、
配信で目の前に誰も見えなくても、
シンガーとして歌うとき、倉舘さんの気持ちはいつも、
届いてほしいただ一人の “あなた”に向いている。

セラピストとしての施術も同じだ。
手を通して伝わってくるのは、体の疲れだけではない。
仕事や人間関係の中で積み重なった緊張や、
知らず知らずのうちに傷ついてきた心の状態まで、
まるごと伝わってくることがあるという。

倉舘さんは、それらを拒まない。
重たいエネルギーも、ネガティブな空気も、
いったん自分の中で受け取り、
できる限りポジティブなかたちに変えて、相手に返したいと考えている。

歌声であれ、手のぬくもりと技術であれ、
手段は違っても、向き合っている相手はいつも同じだ。
目の前の“たった一人のあなた”を感じ取り、
その人の今に、そっと寄り添う。

2章

悲しみも苦しみも、歌に込めて力に変える

倉舘さんは物心ついたときから歌が大好き。初ステージは中学の文化祭だった。
「歌で人を魅了したい」と強く思い始めたのは、20歳で娘を出産した頃。
かけがえのない存在ができ、「好きなことを通して堂々と自分を表現している母親の姿を見せたい」という思いが湧き上がってきた。

20代は子育てと仕事、カラオケ大会出場と練習に明け暮れる。
録音した自分の声や、目標とするアーティストの音源を聴き込んで独学で歌唱法を研究。大会に出ては審査員の講評を参考にした。
夕食と入浴を済ませた後で練習に出かけ、倉舘さんの声をBGMに、娘がカラオケボックスで眠りに落ちる夜もあった。

20代半ば、祖父、姉、母と、家族を立て続けに亡くした時期がある。
言葉にできないほどの喪失感の中で倉舘さんを支えたのは、
娘の存在と歌だった。

前向きになろうとしたわけではない。
悲しみを乗り越えようとしたわけでもない。
ただ、その感情を抱えたまま声に出すことが、
なんとか1日をやり過ごす助けになっていた。

「悲しみが自然に歌に乗り、歌ううちに少しずつ解放されていく感じがありました。悲しいけど、悲しさだけで歌っているわけではないんです。悲しみの持つ感情の“強さ”を借りてこそ、良い表現ができる側面もきっとある。悲しみや苦しみの気持ちには強い力があるから」

配信動画で倉舘さんの歌声を聴いたとき、
ふとゴスペルシンガーのようだと感じた。
明るく、リズミカルで、力強い。
けれどその根底には、どこかもの悲しさが流れている。
喜びと痛みのどちらも抱えたまま、声を重ねていくような雰囲気だ。

それは宗教音楽としてのゴスペルというより、
人生の中で何度も立ち止まり、
それでも声を出し続けてきた人の歌に感じられた。

押しつぶされそうな悲しみも、苦しさも、歌に込めれば力になる。
歌い続けた時間の中で、倉舘さんは実感した。

歌は悲しみに居場所を与え、
それを、やがて誰かに手渡せる力へと変えていった。

3章

身体と心の声を聴くサロン

2022年1月に本格的に開業した「ふわ月」は、
一歩足を踏み入れると、日常とは少し違う空気に包まれる。

オーロラのような間接照明に、天体をかたどったライト。
ふんわりと漂う落ち着いた香りが、
外の世界と、ここで過ごす時間とを、静かに切り分けている。

メニューはドライヘッドスパと、ロミロミとマッサージの要素を組み合わせた
オリジナルの「もみロミ」。
仕事の合間や、予定の前後でも立ち寄りやすいようにと、
オイルなどは使わず、着替えも必要がない施術に絞った構成だ。
また、個室サロンとしては珍しく、男性の利用も受け入れている。

施術前に利用者が記入するカウンセリングシートの最後の項目に、
「お客様の今の目標や、夢は何ですか?」とあるのが目に留まった。

「資格取得」「お金持ちになりたい」などと回答する人もいれば、白紙の人もいるという。
でも倉舘さんが注目するのは、それを書いた背景にあるものだ。

もともとは利用者が「癒されに来たい」と感じた理由を知りたかった。
でも、それをサロンで思い出すことで、ストレスを感じる人もいるかもしれない。
そこで、あえて「目標や夢」を書いてもらうことにした。

「大人になると夢を聞かれることがないじゃないですか。
でも、大人になったら夢を持っちゃいけない、なんてことはない。
ここに来た時間が、立ち止まって『自分の夢って何だろう』と考えるきっかけになればいいと思っています。
身体だけでなく、心の声を聴く時間も、ここで持ってもらえたら」

このサロンもまた、
倉舘さんが「目の前の一人」と向き合うための場所なのだ。

取材・文:馬場 美穂子

もっと知りたい方へ(活動リンク)

倉舘 麻美さん

喜びだけでなく、悲しみや痛みの中でも歌うことで自分自身を支えてきた“歌うセラピスト”。八戸市内にて完全個室サロン「ふわ月」を経営。ドライヘッドスパ、もみほぐしとハワイ伝統の癒し技術「ロミロミ」を融合した「もみロミ」の施術を通じ、心と体の状態に寄り添う癒しの時間を届ける。
シンガーとしては、カラオケ世界大会やテレビ番組に出演し、カラオケ大会で日本一に輝いた経験も。ライブや動画配信活動も行っている。

ふわ月
https://www.fuwatsuki.com/

Instagram
https://www.instagram.com/fuwatsuki.jp/

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